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研究内容research

−高電圧分野に関する研究−

直流破壊現象に関する基礎研究

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直流破壊現象に関する基礎研究を推進するために、新しい観測技術の開発とその適用にも積極的に取り組んでいます。直流高電界下における固体や液体材料の破壊現象は、空間電荷の影響を大きく受けために複雑です。しかも、気体の場合と比べて破壊電界は非常に高く、不確定な時期に突然引き起こされることから、その初期過程の物理については未だ不明な点が多く存在します。本研究室では、長尺イメージガイドスコープ(長さ20m)とストリークカメラの組み合わせによる直流破壊前駆現象の流し取りシステムを構築しました。図は、そのシステムで観察した針対球電極間の複合絶縁体(シリコーン油と高分子フィルム)が破壊する初期過程(10ns)のストリーク像です。





直流高電圧用電気絶縁材料に関する研究

ごみ袋の原料であるポリエチレンや、ペットボトルの原料であるPETなどを摩擦すると材料表面が帯電することはよく知られています。これら絶縁体となる材料に直流高電圧による電気ストレスを加え続けると、材料表面だけでなく内部にも電気(電荷)が侵入します。なぜこのような現象が起こるのか、その物理的な過程や、それが絶縁信頼性に及ぼす影響については、未だに不明な点が多々あります。これらを研究し、理解することが、暮らしや産業に直結する電気を長期間故障することなく送電できる安全性の高い電線の開発など、直流送電技術の信頼性向上につながっていきます。
  持続可能な社会づくりに向けて、再生可能エネルギーを活用しつつ、従来よりも高効率な電力輸送システムを構築するためには、交流を用いた送電だけでなく、直流高電圧を用いた送電が必要です。近年、多様になり、複雑化する送電状況のもと、高電圧研究室では、直流高電圧用電気絶縁材料に関する研究をしています。電気を帯びた材料内部から発せられる超音波を検出することにより、内部に蓄積した電荷密度を計測する手法を用いて、絶縁材料における電気伝導の仕組みの解明に挑んでいます。下記の動画は、ポリエチレンに注入される空間電荷の実験結果(左)とシミュレーション結果(右)です。





ナノ秒極性反転パルス放電の物理と環境保全技術への応用

環境への問題意識の高まりに伴い、放電を利用した環境保全機器の開発が盛んです。特に、幅の短い高電圧パルスを繰り返し印加することにより得られる非平衡プラズマを利用したオゾン生成、排ガス処理および排水処理が注目されています。私たちは電極間に直流バイアスが加わった状態のもとで10-7秒以下の短期間だけ極性が反転したときの放電現象の物理について研究するとともに、この手法の排ガス処理や排水処理技術への適用を目指しています。模擬排ガスの酸化分解実験において、従来技術である単一極性の繰り返しパルス放電処理方法よりも遥かに高い処理効率を得ることに成功しています。
  また、パルスパワーを用いた排ガス中や廃水中に含まれる難分解性物質を分解する技術を高効率化させるため、静電噴霧(エレクトロスプレー )により微小液滴を拡散させると共に、同一電極からストリーマ放電を進展させる技術を開発しました。本手法の処理効率は、トルエン含有ガスの分解実験において、放電単独処理よりも高い値を示すことが明らかになっています。





インバータ駆動モータの部分放電劣化評価装置の開発

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インバータ制御により駆動するモータには、インバータサージと呼ばれる異常電圧が高頻度にて伝搬するため、これによる絶縁劣化が問題視されています。私たちは、誰でも簡単に、モータ絶縁材料の部分放電発生確率を自動測定できる装置を開発しました(特願2009-53036)。放電現象は電圧波形や雰囲気などに影響します。本装置は,これらのパラメータを制御できるのはもちろん、部分放電の発生確率を自動的に統計処理してくれるので、各種絶縁材料の評価に用いることができます。







高電圧の農業応用に関する研究

雷のことを稲妻ともいいます。この言葉は,雷が多い年は豊作になるという言い伝えが語源であると言われています。植物種子にある条件下で電気的な刺激を与えると,発芽が促進されることは古くから知られている事実です。また,種子に付着した細菌類や真菌類が放電により死滅することも知られています。最近この現象を利用した農薬を用いない殺菌技術の開発が進んでいます。私たちは,高電圧を用いた種子の発芽促進や殺菌処理の実用化研究を推進しています。下の動画は、未処理(Control)より、10分〜30分の放電処理を施したカイワレ大根が、発芽促進している様子です。







−有機材料分野に関する研究−

フォトニック結晶に関する研究

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フォトニック結晶とは屈折率の異なる物質を光の波長程度の周期で規則的に配列させた構造体です。フォトニック結晶には、フォトニックバンドギャップと呼ばれる光の禁止帯が存在します。これらは、1987 年にE. Yablonovitch とS. John により提唱された概念であり、様々な応用が期待されています。例えば、フォトニックバンドギャップを利用することによって、光の閉じ込めや急峻な曲げなどが可能となります。また、フォトニック結晶は、数マイクロメートルの大きさでプリズムやフィルタなどの光学素子が形成できるため、光デバイスの小型化、集積化が可能となることから、微小光回路などへの応用も期待されています。我々は、実際のデバイスを作製して実験すると共に平面波展開法やFDTD法などを利用した数値計算なども行っています。







液晶チューナブルフォトニック結晶に関する研究

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光の偏光角や透過帯域などの特性を自由に制御することができるフォトニック結晶は、次世代のオプティカルデバイスとして期待されています。一方、外部信号によって特性を自由に変化させることができるチューナブルフォトニック結晶は応用上で極めて重要となります。電気的、化学的、機械的な変調方式がありますが、我々はフォトニック結晶に光学異方性を有する液晶を導入したチューナブルフォトニック結晶を研究しています。







−コンピューターシミュレーション−

シミュレーション

研究室では、実験だけでなく、理論計算やシミュレーションも多くなっています。これまでに計算してきたものを列挙すると、電気工学関連では、絶縁性高分子内部の空間電荷蓄積および電流特性、同軸ケーブルを伝搬する高周波パルス信号と表皮効果、絶縁材料中の音波伝搬と減衰特性、変圧器内部の音波伝搬などがあり、光学関連では、コレステリック液晶の透過スペクトル、液晶フォトニック結晶の電界分布およびフォトニックバンド構造および状態密度、液晶フォトニック結晶の負の屈折率、液晶レーザーの発光特性、液晶マイクロ波移相器の位相特性と時間応答特性、真珠の干渉色、プラズモンによる電場増強、金属薄膜上のLB膜の発光増強、物性関連では、ネマチック液晶やキラル液晶の配向計算、表面弾性波による液晶の粘性測定、液晶ドロップレットのテクスチャー、液晶のバックフロー、キャピラリーを流れるイオン液体の速度、炭素繊維強化プラスチックの熱伝導および抵抗値のサイズ依存性などが挙げられます。








−真珠に関する研究−

ピース貝選抜に関する研究

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真珠は日本が誇る輸出水産物です。愛媛県は日本有数の産地であり、生産額は60億円を超える規模です。この数字からもわかるように真珠は日本にとっても、愛媛にとっても、非常に重要な水産物です。真珠の価値は、大きさ、光沢、干渉色などで決まりますが、真珠の色の美しさは、厚さ数百ナノメートルのアラゴナイト結晶層が創り出す構造色によるものです。生研支援センターの攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業の支援を受けた「優良アコヤガイの導入等による真珠品質の向上と安定化の実証研究」(代表:増養殖研究所 正岡哲治)のなかで、愛媛県農林水産研究所水産研究センターの小田原和史氏と共同で、アコヤガイのアラゴナイト結晶層厚を計測する装置を開発しました。本計測装置は、従来は目視で選別していたピース貝の色を分光法によって波長を調べ、数値に基づきピース貝を選別することを可能としました。本手法で選別した貝殻を用いて養殖した真珠は、2015年の愛媛県浜揚真珠品評会で「農林水産大臣賞」、2016年には「水産長官賞」を受賞するなど、真珠養殖の品質向上に大きく貢献をしています。また、真珠の品質の高さについては、NHKのニュースでも取り上げられました。

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真珠の干渉色の発現メカニズムの解明

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真珠の構造色の光学特性を解明することにも取り組んでおり、生研支援センターの革新的技術開発・緊急展開事業の支援を受けた「耐病性や真珠品質にもとづくアコヤガイ選抜技術と育種素材の開発」(代表:水産研究・教育機構 奥澤公一)のなかで、真珠の新しい光学モデルを構築して、光学計算による真珠の外観の再現に成功し、真珠の外観を予測できる独自の技術を開発しました。我々の開発したシミュレーターは、物理に基づくものであり、真珠にどのような構造を持たせることで、どのように品質改善できるかということを具体的に示すことができます。そのため、真珠養殖の研究開発において、勘と経験に頼っていた部分についても、光学理論に基づいた指針を与えることができるようになりました。真珠の養殖は、一般的な工学系の実験のように何度も実験できるわけではなく、1年に1度しか養殖できないため、本技術は真珠養殖の技術改善にとって画期的な技術であるといえます。

愛媛大学プレスリリース:真珠の輝きを再現できる新しい光学モデルの構築に成功


 
真珠に関する研究成果が、真珠の業界紙の「真珠新聞」と光学の専門誌の「OPTRONICS ONLINE」に掲載されました。



GIA Tokyoで真珠の構造色について講演をしました。